きものを愛する人々から絶大な支持を得る老舗呉服店、志ま亀が三丁目に移転、三月一日に新店舗をオープンしました。場所は歌舞伎座から徒歩三分。宝珠稲荷神社に近い路地に建つ、築七、八十年の趣ある一軒家です。
必要なリフォームはほどこされているものの、ほぼ建設当時のままの店内に入ると、一瞬で昭和初期にタイムスリップした気分になります。銀座の一軒家できものをあつらえる楽しさは格別です。
文化七年(一八一〇)創業、二百十五年の歴史を誇る志ま亀は昨年、新たな時代を見すえ、白瀧呉服店と事業連携。この店舗は、連携後に踏み出した第一歩なのです。
いっぽうの白瀧呉服店は嘉永六年(一八五三)創業、百七十二年とこちらも長い歴史を誇ります。東京・練馬の本店は都内最大級。着付け教室、茶道教室、文人趣味の教室なども開催され、日本の文化も学べます。
志ま亀の新店主をつとめるのはこの白瀧呉服店の五代目、白瀧佐太郎さんです。
「志ま亀を引き継ぎたいと思ったのは、ものづくりのすばらしさがあるからです。一般の呉服店は産地で仕入れたものを売りますが、志ま亀は自社でデザインから制作までを手がけます。このような商売ができる呉服店は唯一無二です。さらに、志ま亀には歴史的にも貴重なたくさんの図案集があります。これがなくなってしまったら、日本の文化の損失です。だれかが引き継ぐべきだと思っていたら、たまたまご縁をいただきました」
老舗同士の連携で守られる日本の文化。今回の試みは文化継承の試金石ともいえるでしょう。
写真のきものは日本画家、土田麦僊(ばくせん)とともにつくった格調高い訪問着です。新体制が整い、今後もこうした志ま亀らしいきものがつくられていくことはきもの好きにとって、なによりの喜びです。 |