四丁目交差点ほど近くの晴海通り沿いに、伝統的工芸品“尾張七宝”の真髄を継承するお店があります。その名は安藤七宝店。一階には春に合わせた桜柄の小物やブローチが並び、二階では富士山や鶴といった縁起のよいモチーフの品が客を迎えます。
名古屋にルーツを持つ安藤七宝店が銀座に出店したのは、創業まもない一八九〇年のこと。初代店主・安藤重兵衛は、煙管(きせる)販売から工芸品の魅力に惹かれ、仏教でいうところの七種の宝(金、銀、瑠璃、ガラス、珊瑚(さんご)、瑪瑙(めのう)、しゃこ)のように美しい「七宝」焼を家業にと見出しました。
ところで、七宝焼は英語でどのように表記されるでしょうか。実は“Cloisonne(クロワゾネ)”とつづり、“区切る”と言う意味を表します。伝統的な技法を用いた有線七宝は、その名の通り、模様を“仕切って”焼きつけるガラス工芸です。
銅製の素地に、純銀から成る細いリボンのような“植線(しょくせん)”を置き、模様を描きます。その上から細かいガラスの粒“釉薬(ゆうやく)”で彩色し、植線の高さにとどくよう、色を置いては焼きつける作業を重ねます。
釉薬は絵の具と異なり、塗り重ねやぼかしがきく素材ではないため、砂絵を描く要領で色をいくつもつくり、ここぞという箇所に置く技術が不可欠なのです。
安藤重幸社長が目指すのは、複数の精緻な工程と技術を守り、次世代につなげる組織づくり。また、継承とともに広く周知することにも熱心です。名古屋から若手職人を呼び、銀座店で施釉(彩色)の実演を見せるイベントは大盛況で今後も開催予定とか。そもそも七宝焼が世界で高い評価をうけるきっかけとなったのは、一九〇〇年のパリ万博だというのも納得です。
春をことほぎ、一流のきらめきをまとう七宝を求めてみてはいかがでしょうか。 |