回転扉はまるでタイムマシン、くぐればそこに、懐かしい人と談笑した遠い日がよみがえるよう。
昭和十一年に創業したトリコロールが、あづま通りに三代目となる現店舗を建てたのは昭和五十七年。四十一年間変わらないレンガ造りの建物は、再開発の進む銀座で貴重な存在となりました。建物と同じく三代目店主の柴田直孝社長は、この場でこそ提供できる味と空間を大切に守り続けています。
野田弘志の絵が飾られた暖炉、アンティークのピアノや棚、二〇二一年には振り子時計が加わりました。“堀田時計店ミュージアム”の一環として、昭和三十年代製の時計を展示しているのです。新顔なのに、すっかりとけこんでいるのも、この場の力なのでしょう。
時が磨き上げた店で味わうコーヒーの名もまた「アンティークブレンド」。中南米の高地で栽培された豆を強めに焙煎(ばいせん)したオリジナルです。注文が入ってから豆を挽(ひ)き、店独自のコーヒー抽出技術者の資格を持つスタッフが、ネルドリップ方式で一杯ずつ抽出。さわやかなライムを思わせる酸味と、穏やかな苦味が特長です。
このコーヒーの風味に合わせたサンドイッチやデザートも充実しています。特におすすめなのは、スタッフ手づくりのアップルパイ。コーヒーを引き立たせるため、酸味の少ない種類のリンゴを選び、やさしい味に仕上げました。三日前までの予約制で、ホールでの購入もでき、銀座通の手みやげとして評判です。
コロナ禍の時期でも工夫をしながら毎日営業を続けていましたが、規制が緩和された今、「懐かしいお客さまとの再会がうれしい」とスタッフは口をそろえます。
するとまた回転扉から、懐かしい常連さんが登場。おたがいの笑顔がはじけました。
空白の時を埋め、変わらない味と風景を求めて訪れる人の心を満たす場は、今も健在です。 |