五丁目、並木通りに面したビルに店を構える銀座テーラー。一九三五年に鰐渕正志さんが創業し、現在は孫の鰐渕祥子さんが四代目の社長を務めています。
銀座テーラーには二つのライン、ビスポークとイージーオーダーがあります。ビスポークは究極のフルオーダースーツ。八階の自社アトリエで一人の職人がすべての工程を縫い上げる丸縫いをします。
「お客さまの体型や癖などを考慮して細かく調整するので、着ていることを忘れてしまうほど着心地が良く、シルエットもきれいです。ただ、とても手間がかかるので、手がけているところは非常に少ないです。これが当店の希少価値で一番の強みだと思っています」と鰐渕社長。顧客との信頼関係は深く、もう五十年以上通っている人も多いとか。
いっぽうイージーオーダーはCLOTHO(クロト)という名前で展開。二年前からレディースも登場しました。パターンは自社のオリジナルを使用。仮縫いはありませんが、オーダー時に体型に合わせて調整しますので、フィットします。
「女性の経営者や役員の方が増えるなかで、勝負服として使えるスーツが既製品になかなかないという声を聞いたのが、レディースを始めた大きな理由です」
いちばん苦労したのはパターン作り。自社の裁断士と試作を繰りかえした結果、シンプルでありながら贅沢感とエレガントをたたえる理想の形のスーツが完成。
今後挑戦したいことは日本以外でも認知度を上げ、世界の有名テーラーの仲間入りをすること。人口が減っていく日本の未来を考えると、挑まなければならない課題でもあります。
今年、創業九十周年。これを記念して、九月にはオリジナルの生地「アンバー(琥珀)」を発表。琥珀を散りばめ、独特のつやと色合いが魅力の贅を極めた生地です。
(撮影:大森ひろすけ) |