亡き父との邂逅
明野 照葉(小説家)
もう二十四年も前のことになる。病院で父が息を引き取ったのを医師とともに確認した後、真っ先に私がしたことは、そっと席を外(はず)すように病室を後にして、その頃はまだ院内にあった喫煙所で一服することだった。ソファに腰を下ろして煙草(たばこ)を銜(くわ)え、唇(くちびる)から白い煙を細く吐き出した私の顔に浮かんでいたのは、悲しみを堪(た)えた苦しげな表情でもなければ瞳に涙を滲(にじ)ませた辛(つら)そうな表情でもまたなかった。私は、どこか安堵(あんど)したような面持ちで、確かに微(かす)かに頬笑(ほほえ)んでいた。
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