漆黒の空間に浮かびあがるかのような美術品。美と向き合う静謐(せいひつ)な時間は、今の銀座では得がたいものです。
ここ七丁目の銀座 黒田陶苑は、昨年創業九十周年を迎えました。
名古屋出身の創業者、黒田領治氏は青年時代、銀座通りにあった陶磁器交易商社に勤務。仕事を通じて若かりし日の北大路魯山人と出会い、親交を深めます。当時の魯山人は食の分野では名を知られていましたが、作陶の分野ではまだ研鑽を重ねているさなか。しかし領治氏は時代に先駆けて魯山人の才を見出し、やがて独立。日本橋に魯山人作品の専売店である黒田風雅陶苑を構えます。
その後新橋駅前に移り、領治氏は富本憲吉など広く作家を扱うようになり、店の規模は拡大。一九四九年に銀座八丁目に黒田陶苑美術部を開設、一九五八年には新橋駅前から銀座通りに本店を移し、さらに二〇二一年、銀座六丁目に支店のアネックスも開設。そして二〇二四年に内藤廣(ないとうひろし)氏が内装を手がけた現在の店が完成しました。
現在、店を統べる黒田佳雄氏は、領治氏の孫にあたります。
「他の人がすでに認めた作家を取り入れるのではなく、自身が良いと思った人材を探しなさい」
領治氏のこの言葉を糧に、自らの目を頼りに作家を発掘。分野は陶芸をはじめ工芸、漆芸、木工、金工と幅広く、物故現存両方の作家の立体作品を主に扱います。
店内は常設と企画展のコーナーで構成。写真は常設展のスペースで、右の花器は九〇年代に活躍した和太守卑良(わだもりひろ)の作です。隣には大正時代、まだ作風を確立する前の魯山人の器が陳列されていました。
「あえて時代を統一しないように作品を展示しています。美術品によって、時代を超越する愉しみをご提供したいと考えまして」
企画展は毎週展示内容を替えているほか、四季ごとに二週間の特別展を開催。美をめぐるタイムマシンのような店なのです。 |