志ま亀は文化七年(一八一〇)、京都の中京で呉服商として創業しました。屋号は、創業当時の「嶋屋亀之助」に由来します。二百十四年間、きものづくりはすべて京都の自社工房で行っています。
現在のあるじ、武内美都さんは八代目。京都に生まれ、先々代主人である母・俊子さんの薫陶を受けてきました。
――日本の民族衣装として、国際的にも誇り高い日本のきものの伝統を守り継いでゆくことの貴重さを、私はでき得る限り、古き良ききもの創りを本命とする立場として、頑なに伝承していきたいものと、おこがましくも考えております(武内俊子著『きものと心』より)
俊子さんの想いは美都さんに継がれ、唯一無二の志ま亀のきものの価値はゆるぎなく、銀座の店を訪れる人は絶えません。
写真上、衣桁にかかっている二点は、吉祥文様の松竹梅をあしらった振袖です。右の若草色、左の橙色ともに瑞々しい世代を引き立てる色。成人式など、娘時代の一生の祝事にふさわしい一着です。
写真手前は、三~四十代向けに美都さんが提案するおしゃれ着、小紋と塩瀬の名古屋帯の組み合わせです。左は鴇色に紫、右は梔子色に黒というふうに、きものに対して帯は反対色、小物は同系統の色を用いるのが志ま亀流。黒地の帯には金糸で京縫がほどこされ、着こなしの格が上がります。
塩瀬の名古屋帯は、志ま亀の美意識を気軽に取り入れられる、おすすめの品。見本帳を繰れば、有職文様から遊び心あふれる玩具や動物、いかにも京らしい大徳寺土塀、風神雷神まで、長い年月のなかで培われてきた伝統の意匠に心が躍ります。地色次第で文様も表情をかえるため、選ぶのは悩ましくも楽しいひとときです。
春はきものという花が街に咲く季節。人びとが心に描く古都の春を形にしたら、志ま亀のきものになるのではないでしょうか。 |