人通りの少ない朝の四丁目交差点。銀座木村家の前には開店を待つ人の長い行列が。十時の開店とともにパン売り場に人があふれ、カフェが満席になる毎日です。
創業は明治二年。木村安兵衛が次男の英三郎とともに店を構えました。しかし、生地を発酵させるイーストがなくホップで代用した当時のパンは硬く、いっこうに売れません。そこで、英三郎は日本人の口に合うパンの研究を始め、明治七年に酒種(さかだね)酵母を作ることに成功。しっとりした口あたりの生地であんを包んだ、酒種あんぱんを発明します。人気商品になった酒種あんぱんをこよなく愛したのは明治期の官僚、山岡鉄舟。桜の花びらの塩漬けを埋め込んだあんぱんを明治天皇に献上し、皇室御用達となりました。
その後も新商品を生みだす姿勢は受け継がれ、ジャムパン、動物パン、蒸しケーキなど、次々にヒット商品が登場します。あんぱんも現在は常時九種類ほどで、チーズクリームなどの変わりだねも。季節で品ぞろえが替わり、九月には栗かぼちゃとさつまいもが登場。
新製品の開発は今やパンにとどまりません。「あんぱんを軸に、相性の良い商品を探しています。九月にはコーヒーブランドを経営する俳優、坂口憲二さんとのコラボ商品『あんぱんに合うコーヒー』を発売します」と経営管理部長の上野仁さんは語ります。
一階のパン売り場だけでなく、カフェやレストランも長年愛されてきました。二階のカフェではあんぱんセットや小海老のカツレツサンド、三階の洋食グリルではビーフシチューが人気メニュー。四階はフレンチビストロ「アーブルヴィラージュ」。かつて銀座にあった「マキシム・ド・パリ」の最後の料理長がシェフを務めています。いずれの店も銀座通りの眺めが美しく、銀座の雰囲気を楽しむ絶好の場所でもあります。
(写真:大森ひろすけ) |